速く読めるから遅く読める

―フォトリーディングを学ぶと、読む力だけでなくアウトプットの力もつくと言われています。その関係についてはどう感じていらっしゃいますか?

あまり簡単には言えないところだと思うんですね。というのは、フォトリーディングをしていなくても非常に活動的で創造的なことをしている方はいっぱいいらっしゃるわけで、そこは、むしろそれを実践する人に大きな要因がある。でも一方で、フォトリーディングをすることによって、アウトプットができるようになるということは言えるでしょう。なぜなら、速く読めるということが、そういうことだからです。

―と言いますのは…?

ちょっと違う側面から話しますが、僕がなぜフォトリーディングを教えることがおもしろいと思うかというと、自分が非常に読みあぐむような本であるとか、難解な本を読むのにとてもいい方法だと思っているからなんです。なぜかというと、速く目を通せるから。

どんな本でも、自分が知っているところと知らないところの 2 つが混在しています。難しい本というのは、自分が知らないところがすごく多いわけです。でも、全部が分からないわけではない。どこかは分かるわけです。だから、速くすべてのページに目を通すことによって、自分が分かる部分や、そこから掘っていけるような場所を速く見つけることができる。普通に読むと、分からないところが多いから、そこを見つけるまでに挫折してしまうんですね。フォトリーディングだと、とりあえずざっと全体に目を通すから、自分が攻略できるポイントを見つけることができるんですよ。

―なるほど。同じ時間内に自分がアプローチできる部分を、より多く見つけられるわけですね。

そう。自分が分かるポイントを見つけて、そこから切り込んでいく。速く読める最大の利点は、そこだと僕は思っています。だから、フォトリーディングをしなくてもスラスラ読めるような本ではなく、フォトリーディングをしたからこそ、自分が音を上げずに読み進められる、そういう本を読むのにより効果的なんですね。

もちろん、フォトリーディングをしなくてもそういう読み方ができる方はたくさんいます。でも、フォトリーディングを使うことによって、誰もが簡単にそれができるようになる。そこに、僕は大きな価値があると思います。

―それにより、アウトプットの背景となる知識が厚くなるわけですね。もう 1 つ、いまは世の中に情報があふれていて、書店にも毎日のように新刊本が並びます。そのような時代にフォトリーディングを学び、活用することのメリットは、どんなところにあるのでしょうか?

読まないといけない本が多ければ多いほど、できるだけそれをサッサと済ませた方がいいよね。読まなくてもいいような本にしろ情報にしろ、一方でそれを読まなければいけないという必然もあるわけですね。ならば、そこにかける時間をできるだけ短くしたい。ですから、速く読める方法というのは、実は、読みたい本をじっくり読む方法にもつながります。

二度は読まなくてもいいような本と、一生自分のそばに置いておきたいような本を、同じ力のかけ方でしか読めないとしたら、これはもったいないわけで。よく、フォトリーディングを受講する方の中に、とくかく速く読みたいということをおっしゃる方がいます。それもいい。でもそれと同時に、遅く読めることも知っておいてくださいね、と僕は言うんです。フォトリーディングは、本当に読みたい本を、時間をかけて何度も読むことによって理解を深めていける、あるいは、本に費やす時間量を、自分の価値観によって使い分けていける、そういう方法なんです。

―じっくり読むために、速く読み、そしてじっくり読む…。

ええ、矛盾しているように聞こえますが、じっくりと読むためには、サッサと読むことが必要になってくるんですね。

一番辞めたくないときに転職した理由とは


―大嶋さんは現在、講師としてフォトリーディングやマインドマップ、さらには話し方のプロとしてスピーチなどを教えていらっしゃいますが、そこに至るまではどんなお仕事をされてきたんですか?

ずっと営業職です。業界としては、建設業界が 10 年ぐらいで一番長いですね。マンションの大規模修繕工事ってありますよね。10 年や 15 年ごとに、建物全体をリノベーションしてきれいにしていく。そのときに使う材料を売る仕事です。

ちょっと特殊な、特販部隊みたいなところにいましてね。実際にものを売るお客さんは、その材料を使う工事屋さん。ところが、大元の施主はマンションの住人である区分所有者ですから、その人たちとも話をし、設計の先生とも「こういう材料ありますからこれで設計してください」と交渉し、建設会社や工事会社の人にも説明をし、果ては、気はいいけれどもカッとするかもしれない職人さんにも話をする。1 つのことを、それだけの人たちにどういう具合に分かってもらうか。それは、その 10 年で鍛えられましたね。専門家に分かるように話はできても、知識を持たない区分所有者の方たちに対してどう説明するか。そんなことを常に問われていました。

―人とコミュニケーションをとったり、話をしたりすることはもともとお好きだったんですか?

好きだったと思いますね。学生時代からいろいろな勉強会に関わっていて、そこでいろんな人に会って話をするのがとにかくおもしろかったですから。

そのあと広告業界に移り、外国語に特化した制作物を作る小さな制作会社で、営業プロデューサーをやっていました。ここに移ったきっかけは、私自身が所属している「トーストマスターズクラブ」という、話し方を学ぶ非営利のクラブの友達に誘われたことなんです。彼がその制作会社の社長で、一緒にやらないかと声をかけてくれたんですね。

移る決断をした理由は 2 つあって、1 つは、昔からずっと言葉に関心があったこと。もう1 つは、これはちょっと説明がいると思うんですけど、実は、建設業界の仕事を一番辞めたくないタイミングでそれを言われたからです。

―え、そうだったんですか?

そう。だから結果としてはよかったんです。一番辞めたくないときに言われたから、本当にやりたいことを考えることができるでしょ。辞めたいときというのは、うまくいっていないとか、そこから逃げたいとか、そういう思いがあるんですね。だから、そのときに言われても僕は辞めないです。ところが、実際に言われたのは、これまでの中でパフォーマンスが一番いいというタイミングだったんですよ。だから、自分はこれからどんな仕事をやりたいかを純粋に考えられたんですね。

それで、ここからは私の得意な“鈍感力”が発揮されるのですが(笑)、基本的に、どちらに行っても自分は成功すると。じゃあ、自分の関心がある言葉により近い方を選ぼう。こうなったわけです。

―そのタイミングで、いまの仕事を手放して別の業界に行くという選択ができる人は、多くはないと思います。

よく聞かれました。何が不満だったの?って。不満がなくて辞めるということは、同じサラリーマンをやっている人には、なかなか分かりにくかったようです。

―そこから独立して、現在は講師のお仕事をされているわけですね。

女房の方が、話し方を教えることで先に独立していました。いまは彼女と一緒にスピーキングエッセイという会社をしながら、自治体や官公庁を対象に話し方のセミナーを行ったり、フォトリーディングやマインドマップの講座を行ったりしています。

―大嶋さんは、「自宅で立ち読み」というタイトルで、1 日に 1 冊本を紹介するエッセイを Facebook で書かれていますね。最近読まれた本で、特におすすめの本はありますか?

いろいろありますが、おすすめといえばやはりこれですね。『生と死の境界線―「最後の自由」を生きる』。岩井寛さんという精神科医の先生が、進行する自らのガンと向き合い語ったことを、松岡正剛さんが聞き取り、まとめた本です。これはすごい本です。読んでいると霊気が漂ってくるというか、そんな荘厳な印象を受けます。

著者は、病状がどんどん進んでいく中、転移して膨らんだガンのことを松岡さんに話したり、医療麻薬の影響で幻覚が見えたりする。いわば、自分が死んでいく過程と向き合っているわけです。その中で、生きる意味というものをものすごく追求している。僕がメッセージとして一番感じ取ったのは、人生にもともと決まった意味はないということ。人生は無意味である。だから逆に、そこに自分がどういう意味を足していけるのか。著者は、自分の命がなくなっていくというせめぎあいの中で、そういうことを訴えているんです。

本がこんなことを伝えられるのか。人間の知性とは、こんなにも強くあれるのか。これは新しい本ではありませんが、今年読んだ本の中ではいまのところベストですね。すごいとしか言いようがないです。言いようがないと言いながら、エッセイ書いているんですけどね。

聞き手:山下聡子
(2012 年 6 月 株式会社スピーキングエッセイにて)